長谷川農場長直伝!品質アップと高収量のための稲作栽培 - 5

長谷川農場長直伝!品質アップと高収量のための稲作栽培

第5回目の内容

  1. 平成30年度の気象・生育を振り返る
  2. 平成30年度産の作柄
  3. 坂井農場の気象対策試験
  4. 収量構成要素からみた平成30年度の特徴
  5. 来年に向けた取り組み

♦1 平成30年度の気象・生育を振り返る - 豪雪・猛暑・台風

本年の稲作期間の気象を振り返りますと、豪雪・猛暑・台風というキーワードが挙げられます。

平成30年産稲作期間の気象経過と生育概要

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4月は高温(1.9~2.5℃)が続き、また4月中下旬は多日照(104~107%)に。
5月上旬はやや低温でしたが6月中旬を除き5月中旬~8月下旬まで高温(0.1~3.4℃)でした。
特に6月下旬~7月下旬は3℃程度高温となりました。合わせて日射量(102~166%)も5月中旬から8月下旬はかなり高かったようです。

梅雨入りは6月9日ごろ(平年12日)でやや早く、梅雨明けは7月9日ごろ(平年7月24日ごろ)で昨年、平年に比べかなり早かったようです。

8月20日~26日は、台風20号等によるフェーン現象により胴割米が発生しやすい状況にありました。その後台風21号等による大雨などもあり、9月上旬~下旬はやや低温・低日射となりました。

気象と生育の関係を紐解く

ここで各月、気象と生育の関係を詳しく見ていきましょう。

●5月 ― 全体的に高温でかなりの多雨(田植え~分げつ期)

  • 平均気温...上旬は低く、中下旬は高く推移
  • 日照時間...上旬は少なく、中下旬は平年並み
  • 降水量...かなり多め

しかし前年秋からの降雨や大雪の影響と4月からの高温の影響でワキが発生しました。田植後の活着はほぼ平年並みでしたが、生育初めの茎数は全体的には少なめ、葉齢の進展もやや遅れたようです。

●6月 ― 全体的に高温・多照・少雨(分げつ期~)

  • 平均気温...中旬は低く、上下旬は高く推移
  • 日照時間...中旬は平年並みに上下旬は平年より多め
  • 降水量...上中旬は平年並みに、下旬は少なめに

草丈はいずれの品種も短めに生長しました。6月末段階の茎数は、直播栽培ではやや少ない様子でしたが、移植栽培ではほぼ平年並みでした。はじめは遅れていた生育も高温により、ハナエチゼンの幼穂形成期は6月27日で平年同様となりました。

●7月 ― 酷暑の夏(幼穂形成期~出穂期)

  • 平均気温...期間を通じ平年に比べかなり高く、7月の平均気温は28.7度と最も高い
  • 日照時間...平均気温と同じく多い
  • 降水量...上旬の降水量は台風7号によりかなり多かったものの、中下旬はかなり少ない

特に7月9日以降、異例の少雨となり8月17日まで41日間連続最高気温35度以上の真夏日という、厳しい暑さが続きました。坂井市春江町では7月29日の最高気温が39度に。統計開始以来最高となりました。

気象の影響からか、ハナエチゼンの出穂期は7月15日、コシヒカリの幼穂形成期は7月8日とそれぞれ平年より早まりました。コシヒカリ、あきさかりの出穂期も同様に3日程度早くなっていました(コシヒカリ7月27日、あきさかり8月3日)

●8月 ― 全体的に高温・多照(登熟期)

  • 平均気温...上下旬の平均気温は高く、中旬は平年並み
  • 日照時間...上中下旬、平年並
  • 降水量...上中下旬、平年並み

高気圧に覆われて晴れもありましたが、下旬は台風や低気圧および前線の影響で雨や曇りの日も多くありました。

コシヒカリ、あきさかりの出穂以降、高温が続き8月27日には胴割米発生注意報が発令されました。ハナエチゼンの収穫は8月17日頃から始まりましたが、続いてコシヒカリにおいては、台風20号、21号の影響により倒伏となりました。台風の接近に伴うフェーン現象による高い飽差は、登熟に大きな影響を与えたといえます。

●9月 ― 全体的にかなりの多雨・寡照(成熟期)

  • 平均気温...上中下旬、平年並み
  • 日照時間...上中下旬、少なめ
  • 降水量...上中下旬、多め

コシヒカリの成熟期となった9月上旬は、気温は平年並みでありつつも、前線や台風21号の影響により降水量がかなり多く、逆に日照時間も少なくなりました。特に台風21号の接近に伴う風雨で倒伏が進み、倒伏程度の大きい圃場では、登熟歩合が低下、減収の原因になりました。コシヒカリの収穫は4日以降雨が続いたためやや遅れた模様です。あきさかりは18日頃から収穫が始まりました。

坂井農場の風景

♦2 平成30年産米の作柄

全国と福井の作柄の比較 ― 全国やや不良、北陸やや不良、福井平年並み

2018年12月10日公表された全国の作柄は、529kg/10a(前年に比べ5㎏減少)、作況指数98でやや不良でした。

●地域別の作況指数

  • 北海道が90の不良
  • 北陸・東海・四国・近畿が98のやや不良
  • 東北が99
  • 関東100
  • 中国101の平年並み
  • 九州が102のやや良

●作柄低下の要因

不良となった北海道は6月中旬から7月中旬の低温・日照不足の影響を、その他の地域では9月中旬以降の日照不足により登熟が抑制されたためと見受けられます。

●北陸の作柄

北陸の作柄は98、昨年同様やや不良
県別作況指数は
新潟95でやや不良、富山102でやや良、石川100、福井101で平年並み

●福井県の作柄

全籾数(穂数×一穂籾数)は、田植期以降、高温多照で経過したことからやや多い。
登熟は、出穂期以降、日照時間が確保されていることから平年並み。
収量は529kg/10a(ふるい1.70mm)、作況指数101(ふるい1.85mm)

●坂井地域の作柄 ― 品質良好、作柄今一歩

ハナエチゼンは平年並み。コシヒカリ、あきさかりのいずれの品種も、前年を下回り、コシヒカリでその傾向が強く出ました。特にコシヒカリ、あきさかりでは屑米が目立ちました。

●福井県・坂井地域の品質 - 猛暑の中1等比率90%以上

福井県全体の1等米比率は、昨年同期に比べ登熟期の高温、9月の日照不足等の影響によりコシヒカリがやや低下しています。ハナエチゼン、あきさかり、いちほまれは昨年とほぼ同様です。
坂井地域では、あきさかり、いちほまれは県平均を上回っています。
ハナエチゼン、いちほまれは県平均と同様。
ただしハナエチゼンが昨年に比べ3ポイント程度低下しました。

主要品種の等級割合(2018年11月15日現在)

(%)

区分 1等比率
(坂井)
1等比率
(県全体)
昨年同期
(県全体)
ハナエチゼン 92.6 92.8 93.3
コシヒカリ 97.1 90.4 93.2
あきさかり 99.0 93.8 92.8
いちほまれ 97.8 97.5 96.2

●品種別格落理由

品種ごとに特徴が出ました

  • ハナエチゼン...胴割れ、カメムシ
  • コシヒカリ...乳白、未熟
  • あきさかり...着色粒等のその他、カメムシ
  • いちほまれ...胴割れ

坂井地域の主要品種の格落理由割合(1等→2等以下)

俵数(%)

区分 胴割れ 乳白 未熟 カメムシ その他
ハナエチゼン 3,087
(54)
138
(2)
(0.0) 2,238
(40)
208
(4)
コシヒカリ 182
(9)
959
(46)
607
(29)
101
(5)
241
(12)
あきさかり (0.0) 1(0.3) (0.0) 127
(39)
199
(61)
いちほまれ 178
(67)
  88
(33)
   
ハナエチゼン圃場
直播コシヒカリ圃場

♦3 坂井農場の気象対策試験の概要

坂井農場では、毎年気象対策試験を実施しており、その概要について報告します。

坂井農場の平成30年度産の収量

  • あきさかり57.9kg/a
  • ハナエチゼン54.2kg/a
  • コシヒカリ51.5kg/a
  • 直播コシヒカリ36.3kg/a

収量低下の要因について

屑米重割合が、ハナエチゼン(10%)、直播コシヒカリ(30%)、移植コシヒカリ(16%)、あきさかり(13%)と全体的に高く、コシヒカリでその傾向が目立ちました。

品種別収量構成要素について

ハナエチゼン・あきさかりは、1穂粒数が少なく、総籾数も少なかったものの、登熟はやや良好でした。コシヒカリは1穂粒数、穂数ともに平年並み、総籾数も平年並みでしたが、登熟はやや不良。直播コシヒカリの総籾数は平年に比べ多く、登熟は不良となりました。

外観品質{静岡製機(ES1000)}について

ハナエチゼン、コシヒカリは登熟期の高温等の影響により、良質粒率が70%を下回りました。あきさかりは、75%とほぼ平年並み。食味値は、各品種とも平年値を上回りましたが、本年は全体的に良質粒率・タンパク含有率が低く、課題が残ったといえます。

ハナエチゼン

移植ハナエチゼンの収量は54.2kg/aと平年をやや下回りました。収量構成要素からみると総籾数(285百粒/m²、平年比93%)は少なかったものの、登熟歩合が平年に比べ高くなりました。品質をみると、外観形質は、良質粒率68%で平年より低く、食味値はやや高め。出穂期以降の気温がやや高く、日照時間も多かったことが登熟条件にプラスしたものと考えられます。

ハナエチゼン(移植)

(kg/a)

区分 わら重 籾重 粗玄米重 屑米重 精玄米重
30年 46.9 74.7 60.2 6.0 54.2
平年 60.7 79.0 63.5 6.6 56.9

●移植コシヒカリ

移植の収量51.5㎏/aと屑米重が多く平年を下回りました。収量構成要素からみると総籾数は平年並み、登熟歩合・千粒重は平年より低くなりました。品質面において、外観形質が良質粒率67%で平年より低く、食味値はタンパク含量低く86と高い数値でした。9月上中旬の気温は平年よりやや低く、日照時間もやや少なかったため、登熟がやや不良となったようです。

コシヒカリ(移植)

(kg/a)

区分 わら重 籾重 粗玄米重 屑米重 精玄米重
30年 74.3 77.2 61.3 9.8 51.5
平年 68.6 74.4 60.2 6.4 53.8

●直播コシヒカリ

直播の収量は36.3kg/aでほぼ平年に比べかなり減収しました。収量構成要素からみると総籾数が多く、登熟歩合が平年に比べかなり低くなりました。品質をみても良質粒率は平年よりかなり低かったのですが、食味値・タンパク含量はほぼ平年並みでした。

コシヒカリ(直播)

(kg/a)

区分 わら重 籾重 粗玄米重 屑米重 精玄米重
30年 80.6 66.3 52.0 15.7 36.3
平年 70.2 66.6 53.3 9.3 44.0

●あきさかり

収量57.9kg/aと屑米重がやや多く平年を下回りました。収量構成要素では、総籾数少なく(平年比94%)、登熟もやや不良で千粒重も小さくなりました。品質では、良質粒率75%で平年並み、食味値は82と平年をやや上回りました。

あきさかり(移植)

(kg/a)

区分 わら重 籾重 粗玄米重 屑米重 精玄米重
30年 65.2 82.3 66.8 8.9 57.9
平年 83.9 87.9 72.0 6.8 65.2
コシヒカリ圃場

♦4 収量構成要素等からみた本年の特徴

屑米の増加

全体的な傾向としてコシヒカリ、あきさかりの屑米が多く収量が低下しました。
気象対策試験では、ハナエチゼンはほぼ平年同様でしたが、直播コシヒカリ(1.6倍)、移植コシヒカリ(1.6倍)、あきさかり(1.3倍)と平年に比べ大きく増加しました。

収量構成要素(品種別)―登熟不良が屑米の増加、減収の要因

移植栽培の品種別構成要素についてみると、ハナエチゼン、あきさかりは1穂粒数少なく、穂数も平年並み。総籾数は少ない傾向でした。コシヒカリは1穂粒数・穂数とも平年並みで総籾数も平年並み。しかし目標籾数に比べるとやや過剰でした。登熟について、ハナエチゼンは良好、コシヒカリは不良、あきさかりは平年並みとでした。

直播栽培の品種別構成要素について

ハナエチゼン、総籾数は少なかったが登熟良好。コシヒカリは、平年に比べやや1穂粒数多く総籾数もかなり多く、登熟は不良。あきさかりは、総籾数少なく登熟不良でした。

収量構成要素

(平年比)

区分 1穂粒数 穂数
(本/m²)
総籾数
(百粒/m²)
千粒重 登熟歩合
ハナエチゼン 67
(94)
426
(99)
285
(93)
21.1
(95)
90
(107)
直播ハナエチゼン 57 445 254 21.5 91
コシヒカリ 83
(103)
366
(100)
300
(102)
20.7
(98)
80
(95)
直播コシヒカリ 77
(110)
412
(97)
317
(108)
21.0
(101)
60
(75)
あきさかり 72
(96)
451
(100)
325
(94)
20.8
(96)
87
(102)
直播あきさかり 65 498 324 21.0 70

平成30年度産の収量低下の要因

全体的には高温・登熟の中、葉色はやや淡く推移したものの、適正な水管理や肥培管理により1等比率が90%以上確保できました。
しかしコシヒカリ等は登熟歩合が低く、屑米重が増加しました。本来高温・多日照は稲作にとってプラスの要素で光合成が促進されると予想されますが、本年の特徴的事項として、「高温で登熟期間の飽差が全般的に高かったこと」があります。
特に台風20号の接近に伴うフェーン現象による8月20日から26日にかけての高い飽差はコシヒカリへの登熟歩合の低下につながったと考えられます。

*飽差(乾きやすさの指標)
温度が高く湿度が低いと高まり、飽差が高いと日射があっても光合成速度は低下する。

♦5 来年に向けた取り組み

過去6年間の稲作期間(成熟期)の気象を見てみましょう。

  • 25年度 8月下旬から9月中旬の大雨
  • 26年度 8月の日照不足
  • 27年度 8月中旬から9月の低温・日照不足など異常気象が続く
  • 28年度 台風や秋雨前線の影響も少なく稲作期間全体にわたり日照時間に恵まれた。収量の安定・品質の向上に結び付いた。
  • 29年度 6月の低温、8月中旬以降の曇天、日照不足など不順な気象
  • 30年度 7月の酷暑、少雨8月下旬以降の相次ぐ台風、低日照など

地球温暖化の影響からか、今後も不順な天候の常態化が予測されます。
平成30年度の稲作は、異常気象であっても1等比率が90%以上となり、安定した結果を得られました。しかし、収量面では主要品種のコシヒカリは屑米重が多く減収した農業者も多かったようです。特に本年は、(1)屑米重が多かったこと(2)未熟粒率が高かったこと(3)タンパク含有率の低い傾向、を考えると適切な追肥・管理がなされたのか今一度振り返る必要があります。

今後、米政策の変更や人口減による需要量の減少など益々産地間競争が厳しくなることでしょう。需要動向に即したコメ作り、全天候に対応したコメ作りが基本です。
このためには、適期田植を基本に土づくり・病害虫防除や気象変動に対応した圃場毎のきめ細かな管理をしましょう。

農場長ポイント1
登熟向上対策
○生育量・葉色に応じた穂肥の施用
○ケイ酸、リン酸、カリ等の土づくり資材の施用と深耕による根域の拡大
○間断通水の励行、早期落水の防止

農場長ポイント2
○目標茎数を確保したら中干し等による適切な水管理
ハナエチゼン 400本/m²
コシヒカリ 350本~380本/m²
あきさかり 420本/m²
いちほまれ 350本~380本/m²